188 研究系及び研究施設の現状
鈴 木 敏 泰(助教授)
A -1)専門領域:有機合成化学
A -2)研究課題:
a) アモルファス性有機電子輸送材料の開発 b) 有機 n 型半導体の開発
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 有機エレクトロルミネッセンス(E L )素子は次世代のフラットディスプレーとして注目されているが、これを構成す る電子輸送材料は選択の余地がないほどに少ない。このため我々は全フッ素置換されたフェニレンデンドリマーを 設計し、昨年度、C60F42および C132F90を有機銅を使ったクロスカップリングにより合成した。今年度は、直線状のオ リゴマーであるperfluoro-p-quinquephenylからoctiphenyl (PF-5P, 6P, 7P, 8P)の合成と評価を行った。これらの化合物 は無色の固体で、有機溶媒に不溶である。DSC の測定ではガラス転移は観測されなかった。これらの材料を電子輸送 層とした有機E L 素子を作成したところ、デンドリマーに比べはるかに優れた性能を示した。PF -6Pの誘導体では、最 高輝度が 10 V で 19970 cd/m2に達した。PF -7P および PF -8P の輝度−電圧、電流−電圧曲線は PF -6P のそれとほとん ど同じであった。これは電子注入よりも電子移動が律速になっている可能性が高いためであると考えている。 b) 最近、有機トランジスタ(F ield E ffect T ransistor:F E T )に注目が集まっている。これを構成する有機半導体は、たとえ
ばα-sexithiopheneに代表されるようにそのほとんどが p型であり、n型のものは少ない。p型およびn型から構成され る消費電力の小さい相補型集積回路を構築するためには、大気中安定で電子移動度の高い有機n型半導体の開発が 必要である。また、有機単結晶を使ったF E T ではレーザー発振や超伝導が観測されるなど基礎物理としても大きな 関心を集めている。有機 n 型半導体は既存の化合物かその改良にとどまっており、合理的な分子設計による全く新 しい分子というのは見当たらない。我々は、有機 E L 素子の電子輸送材料開発から得た知識を使い、有機 F E T に適し た新規 n 型半導体の開発を進めている。具体的には全フッ素置換により電子受容性を高め、分子骨格にはできるだ け平面性の高いものを用いる。これにより、電子注入が改善され、結晶性が高くなることにより電子移動度の向上が 期待できる。
B -1) 学術論文
Y. SAKAMOTO, T. SUZUKI, A. MIURA, H. FUJIKAWA, S. TOKITO and Y. TAGA, “Synthesis, Characterization, and Electron-Transport Property of Perfluorinated Phenylene Dendrimers,” J. Am. Chem. Soc. 122, 1832 (2000).
S. B. HEIDENHAIN, Y. SAKAMOTO, T. SUZUKI, A. MIURA, H. FUJIKAWA,T. MORI, S. TOKITO and Y. TAGA,
“Perfluorinated Oligo(p-Phenylene)s: Efficient n-Type Semiconductors for Organic Light-Emitting Diodes,” J. Am. Chem. Soc. 122, 10240 (2000).
B -4) 招待講演
T. SUZUKI, “Perfluorinated Phenylene Dendrimers and Oligomers: Efficient Electron-Transport Materials for Organic Light- Emitting Diodes,” FLUOROPOLYMER 2000: Current Frontiers and Future Trends, Savannah (U. S. A.), October 2000.
研究系及び研究施設の現状 189 C ) 研究活動の課題と展望
最近、次世代の有機電子材料として「単一分子素子」や「ナノワイヤー」等のキーワードで表される分野に注目が集まってい る。S PM技術の急速な発展により、単一分子メモリ、単一分子発光素子、単一分子ダイオード、単一分子トランジスタなどの 基礎研究が現実的なものとなってきた。一個の分子に機能をもたせるためには、従来のバルクによる素子とは異なった分子 設計が必要である。計測グループとの密接な共同研究により、この新しい分野に合成化学者として貢献していきたい。現在 行っている有機半導体の開発は、単一分子素子研究の基礎知識として役立つものと信じている。